87.網膜静脈閉塞症
網膜静脈閉塞症(もうまくじょうみゃくへいそくしょう)。初めて名前を聞いた方もいらっしゃると思います。当院のコラムでは2年前に書いています。
血管には動脈と静脈があります。動脈は酸素と栄養を運んでくれます。静脈は二酸化炭素と老廃物を心臓に送り返します。網膜の静脈が詰まり、眼底出血を起こす病気の名前です。
動脈は水道、静脈は下水と考えてください。下水が詰まったら水があふれ出します。これが眼底出血の原因です。
1) 原因
血栓や動脈硬化、特に動脈硬化が一番の原因です。固くなった動脈が、動脈と静脈の交差部で静脈を押しつぶし。流れを止めてしまいます。血栓も動脈硬化も加齢による変化が多いので、年齢が進むにつれリスクは高くなります。
2) 症状
網膜の中で一番大切な場所、見る力の集中した場所を黄斑部といいます。ここに出血がかかると視力が低下します。また、出血した部位に対応して視野欠損を自覚する人もいます。自覚症状がなく検診で偶然見つかる人も珍しくありません。
静脈閉塞は一部の静脈が詰まる「網膜静脈分枝閉塞症」と本幹が詰まる「網膜中心静脈閉塞症」に分けられます。上の写真は網膜静脈分枝閉塞症、下の写真は網膜中心静脈閉塞症です。中心静脈閉塞症では網膜全体に眼底出血が起きているのがわかります。
3) 治療
出血が黄斑部にかからなければ、患者さんは視力低下の不便がないので経過を見ます。ほとんどの方は自然に出血がひき、治療は必要ありません。
問題は、出血が黄斑部にかかって視力低下がある方、中心静脈閉塞症の方です。現在は、血管内皮増殖因子(VEGFと呼びます)を抑える薬(抗VEGF薬)を眼内に注射する治療法が主流になりました。この治療でほとんどの方は黄斑部の出血、浮腫が軽減し視力が向上します。しかし、なかにはこの治療で効果のでない方もいます。その場合は、さらにレーザー光凝固術、硝子体手術の治療を考えていきます。
4) 成人病との関係
この病気は動脈硬化、高血圧、糖尿病といった成人病のサインでもあります。内科を受診していただいた患者さんに糖尿病が見つかったこともありました。内科かかりつけ医のない方は、内科を紹介し、全身の病気がないか調べていただきます。
全身の病気があるかもしれないよという、身体のサインなのです。
2017/3/8更新